陰嚢の腫れ、陰嚢の痛み
急性陰嚢症とは
急性陰嚢症とは、陰嚢に突然激しい痛みや腫れが生じる病気の総称です。放置すると重篤な状態を引き起こす可能性があるため、緊急性の高い疾患として迅速な診断と適切な治療が不可欠です。原因は様々ですが、代表的なものに精索捻転、精巣上体炎などがあります。そのほか 陰嚢の腫れを起こす疾患として精索静脈瘤、陰嚢水腫、精巣腫瘍などがあります。
精索捻転(せいさくねんてん)
概要
精巣へ血液を送る血管や神経が通っている精索がねじれてしまい、精巣への血流が途絶える病気です。発症から6-8時間以内に治療を行わないと、精巣が壊死してしまう可能性があります。
症状
- 突然の激しい陰嚢の痛み
- 下腹部や鼠径部の痛みを伴うこともあります
- 陰嚢の腫れ、発赤
- 患側の精巣が挙上(通常よりも高い位置にある)している
- 触診で精巣の硬化や圧痛を認める
好発年齢
6歳以下の男児に多いですが、思春期前後の年齢層でも起こりえます。
治療
用手的整復にてねじれが戻らない場合には、壊死を防ぐために緊急手術が必要になることがあります。時間が経過していた場合には精巣摘出が必要となることがあります。対側の精巣も将来的に捻転を起こす可能性があるため、同時に固定術を行うことが多いです。
精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)
概要
精巣の隣にある精巣上体に細菌感染や炎症が生じる病気です。
症状
- 徐々に始まる陰嚢の痛み
- 陰嚢の腫れ、発赤、熱感
- 排尿痛、頻尿、尿道からの分泌物を伴うことがあります
- 程度が強い場合は発熱を認めます
- 触診で精巣上体の腫脹と圧痛を認める
原因
細菌感染(尿路感染症の原因菌、性感染症の原因菌など)が主な原因です。
治療
抗菌薬の投与が中心となります。安静、冷却などの対症療法も行われます。
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)
概要
精巣から心臓へ戻る静脈の弁が機能不全を起こし、静脈が拡張して瘤(こぶ)のようになる病気です。通常は無症状のことが多いですが、瘤の中で血流が逆流、うっ滞することで痛みや違和感を認めることがあります。
症状
- 陰嚢の痛み(間欠的で鈍痛であることが多い)
- 陰嚢の腫れ
- 触診で拡張した静脈瘤が索状に触れることがあります
原因
静脈弁の機能不全による静脈血の逆流、うっ滞
治療
軽度の場合は安静や鎮痛薬で経過観察となります。また男性不妊の原因となりえますので、不妊の場合や痛みが強い場合は、手術(静脈瘤結紮術)が必要となることがあります。
陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)
概要
精巣とそれを覆う鞘膜(しょうまく)という膜の間に液体が貯留する病気です。
症状
- 陰嚢の腫れ(痛みを伴わないことが多い)
- 触ると柔らかく、透光性(光を当てることで内部が透けて見える)がある
- 朝小さく、夕方大きくなることがある
原因
原因不明なことが多いですが、外傷や炎症、精巣腫瘍などが原因となることもあります。
治療
無症状で軽度の場合は経過観察することがあります。腫れが大きい場合や不快感がある場合は、穿刺吸引(針で液体を抜く)や手術(鞘膜切開術、鞘膜反転術など)を行います。
精巣腫瘍(せいそうしゅよう)、精巣がん
概要
精巣に発生した腫瘍が急速に増大し、陰嚢に腫瘤を触れます。多くは悪性(がん)で進行が早いことが多いです。
症状
- 陰嚢の腫れ(硬い腫瘤を触れます)
- 痛みは少ないことが多いです
検査
エコーにて精巣内部の性状、採血にて腫瘍マーカーを測定することで診断につながります。またCTにて転移の有無も評価します。
治療
精巣腫瘍が疑われる場合は、治療は手術(高位精巣摘除術)が基本となります。精巣腫瘍は進行が速いことが多いので早期に行われることが多いです(準緊急手術)。
摘出した組織の検査に結果にて放射線治療や全身治療である化学療法を行うことがあります。
当院での対応
急性陰嚢症は、原因疾患によって治療法が大きく異なるため、迅速な診断が非常に重要です。
診断の結果、緊急手術が必要な精索捻転が疑われる場合は、連携している高次医療機関へ速やかにご紹介いたします。精巣上体炎やその他の原因による急性陰嚢症に対しては、適切な薬物療法や対症療法を行います。
陰嚢の突然の痛みや腫れは、放置すると重篤な結果を招く可能性があります。「様子を見よう」と安易に考えず、症状が現れたらすぐに泌尿器科を受診してください。特に激しい痛みがある場合や、時間が経過しても改善しない場合は、迷わず救急外来を受診することも検討してください。